キーワード透析事典

透析膜

とうせきまく

Dialysis Membrane

「ダイアライザ」の項目で「人工腎臓の“心臓部”がダイアライザである」と書きましたが、そのダイアライザの“心臓部”が透析膜といえるでしょう。ダイアライザで起きている現象は、全てこの透析膜を介した水や物質のやり取りと考えることができます。

珈琲にお砂糖を溶かすとき、普通はスプーンでかき混ぜますが、実は時間さえかければ、全体が均一な甘さになります。このように液体の中で濃度の差があると、濃度の高い方から低い方に物質が移動して、ついには全体が同じ濃度になる性質があります。
この現象は拡散と呼ばれますが、2種類の液が膜で仕切られている場合にも、同じような現象が起きます。この場合、膜をくぐれるサイズの分子と、くぐることができない分子に分けることができます。血液中にある老廃物は比較的小さな物質が多く、これらの多くは膜をくぐることができます。しかし、血液中にある大切な成分(タンパク質など)は大きな分子なので、透析膜をくぐるものはあまりありません(図1)。

図1:血液透析のしくみ(中空糸1本の拡大)

こうして、濃度の差と分子のサイズの差を利用して、物質を分ける方法を透析といいます。

透析膜はセルロースやその仲間を素材にしたもの、石油由来のプラスチックを素材にしたものの2種類に大別できますが、化学的な組成でいえば10種類くらいの膜があります。現在は、毒性が強いといわれる、やや大きな尿毒素を取り除くためのプラスチック素材の膜が多くなりました。これらの膜を電子顕微鏡で見てみると、血液が触れる内側に近い部分は密(「緻密層」という)ですが、それ以外の部分は比較的空隙が多い(「支持層」という)ことが分かります(図2)。

図2:ポリスルホン膜の内側表面付近(7,000 倍)

実は緻密層が膜の性能を決める重要な部分で、ここには電子顕微鏡でも見えない小さな孔があると考えられています。

日本は古くから繊維産業が発達していたため、繊維の技術を応用して沢山の優秀な透析膜が開発されてきました。透析膜は老廃物を取り除く性能が重要ですが、最近は治療中、患者さんの身体にできるだけ負担を掛けない工夫(「生体適合性」という)がなされています。

山下 明泰 先生

2017.05.19

山下 明泰 先生(法政大学 生命科学部 教授)

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