シャント音とは何か?
シャント系のアクセス(AVF、AVG)には、シャント音と呼ばれる、通常の血管では聞こえない音が聞こえるようになります。このシャント音とは、高圧の動脈から、圧の低い静脈へと血流が流れ込む際に生じる雑音です。通常、圧較差の一番強い吻合部が一番大きな音であり、中枢(体幹に近いほう)に行くにしたがい、徐々に小さくなっていきます。
しかし、静脈系は枝分かれしている箇所が多く、また逆流を防止するための静脈弁があることから、そのような場所でも乱流によるシャント音が生じます。つまり、吻合部の音とシャント本幹の音は同じではなく、場所によって異なるのが普通です。
なぜシャント音が聞こえるのか?
口笛を思い出してください。口から普通に息を出しても大きな音はしませんよね。これは、空気の流れの速度に大きな変化がないからです。
しかし、口をすぼめて息を出すと口笛となります。これは、唇部分で空気の流れに差が生じるために発生します。大きな息を出すほど大きな音になりますし、また、口をさらにすぼめると高い音になります。
シャントも全く同じ原理です。心臓の拍動に合わせて、血流の強弱が音となって聴取できるようになるのです。継続して血流があれば連続音になりますし、特に狭窄がない場所では、圧較差が少ないために低音として聞こえます。つまり、シャント音をよく聞くとシャントの良し悪しがかなり判断できます。
シャントの聴取方法
シャント肢を直接耳で聞いても、ある程度は聴取できます。しかし、しっかりと判断するためには、聴診器を用いたほうが良いでしょう。
医療従事者が使用するような、高価な聴診器を購入する必要はありません。特徴的な音の確認ができれば良いので、1,000円から2,000円程度のもので十分ですので、ご自分の安定した透析のために投資しましょう。
先ほど述べたように、場所によってシャントの音は異なります。ですから、吻合部1カ所のみを聞いて判断してはいけません。シャント全長にわたり聞くことが重要です。
正常なシャント音
そもそも、動脈と静脈を吻合するといった異常な解剖状態での雑音ですので、“正常”なシャント音と呼んでいいのかは少々疑問ですが、“正常に透析医療が安定して行えている状態”のシャントとご理解ください。
基本的な音は、「連続性の低音の音」と考えてください。アメリカのパトカーのサイレン音のような連続音は良く、行進のザッザッというような断続音はダメ。滝のような低い音は良く、時代劇の岡っ引きのピーピーという笛のような音は、狭窄のない良いシャントではありません(表)。
シャント音の実際
では実際にシャント音を聞いてみましょう。下の写真は、シャントの血管造影の写真です。DSA画像といわれる、コンピューターで骨を消し、血管のみを描出した画像です。血液は、橈骨動脈(親指側の動脈)から吻合部を介して静脈へ流れています。
写真の①吻合部の直上音と、②シャント血管(静脈)の音を聞いてみてください。
「①吻合部の正常音」はあたかも蒸気機関車のような、低く連続した音として聞こえると思います。「②シャント血管の正常音」は、①とは若干異なるように感じられると思います。いずれも、連続した音であることがわかると思います。
もう1つ、正常なシャントの画像とシャント音を紹介します。「③吻合部の正常音」「④シャント血管の正常音」も、低い連続した良い音といえます。