体調管理の基礎知識

糖尿病患者さんの体調管理 〜血糖値の管理

一色 啓二 先生

2016.06.17

一色 啓二 先生(富田クリニック(本院) 院長)

腎機能が低下した糖尿病患者さんは、高血糖にも低血糖にもなりやすい

糖尿病の治療の基本は血糖管理です。腎症を含む糖尿病合併症予防のために、食事や運動、経口血糖降下薬やインスリンなど注射薬を用いて、血糖の正常化(糖代謝の正常化)を目指すことは非常に重要です。
腎機能が低下した糖尿病患者さんの糖代謝には、相反する二面性があります。腎臓が悪くなると、本来排泄されるべきさまざまな老廃物(=尿毒症物質)が蓄積して、インスリンの効きが悪くなります(=インスリン抵抗性があがる)。反面、インスリンが分解されずに取り込みが増え、その効果が続きます(=インスリン作用が遷延する)。腎臓が悪くなると、それまでより少ないインスリンの注射量で、血糖を管理できる場合があるのもそのためです。
また、腎臓は糖も産生している臓器(糖新生:肝臓85%、腎臓15%)なので、腎臓が悪くなると糖が作れなくなります。
このように、腎臓が悪くなった糖尿病患者さんでは、高血糖にも低血糖にもなりやすい状態であることに注意して血糖管理をしなければなりません(図)。

図:腎機能が低下した糖尿病患者さんの血糖の状態

透析をしている糖尿病患者さんの血糖値はグリコアルブミンで判断

わが国で慢性透析をしている32万人のうち、約4割が糖尿病が原因で透析を受けています(*1)。透析をはじめるときに腎症以外にも合併症を持っている人が多く、血糖管理を引き続き良好に保つことは、大血管障害(心筋梗塞や脳卒中)など他の合併症の進展をおさえるために重要です。
透析をしている糖尿病患者さんの血糖管理には、上記の糖代謝の二面性に加えて、さらに『透析』という因子についても留意しなければなりません。
糖尿病の血糖管理の指標にはHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)を用いるのが最も一般的ですが、透析をしている糖尿病患者さんでは、貧血や赤血球造血刺激因子製剤の影響によって、HbA1cは実際より低く評価されてしまいます。
そこで透析医学会のガイドラインでは、随時血糖値(透析前血糖値:食後約2時間血糖値)180~200mg/dL未満、糖化アルブミン(グリコアルブミン:GA)値20%未満(心血管疾患の既往があり、低血糖傾向のある患者さんには24%未満)を、血糖管理の暫定的目標値としています(表)。

表:糖尿病透析患者さんの血糖目標値(暫定)

HbA1cは参考程度になっています。我々も、血液透析をしている糖尿病患者さんの生命予後がGA値で予測されることを報告しており、3年間の調査ではGA値25%以下のグループが(*2)、5年間の調査では24%以下のグループが、それより高いグループより長生きできる(=生存率が高い)ことが分かりました(図)。

図:糖尿病透析患者さんの生存曲線(5年間の調査)

*1 日本透析医学会, 図説 わが国の慢性透析療法の現況 2014年12月31日現在: 17
*2 Isshiki K, et al., Ther Apher Dial 18(5): 434, 2014

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