日々の体調管理の重要性

体調管理の基礎知識

日々の体調管理の重要性

政金 生人 先生

2016.04.01

政金 生人 先生(矢吹病院 院長)

透析を始めたからといって「全くの別人」になったわけではない

「透析をするということ」で、透析患者さんは週3回・4時間の血液透析や毎日の腹膜透析をしっかりやったとしても、正常の腎臓に比べると毒素の除去が不足しており、そのために様々な合併症や症状がでるのだとお話しました。元気で長生きするためには、しっかり栄養をとり十分に透析するということが基本になりますが、それを確実にするためには、自分の体調をよく知り、日々チェックすることが大切です。
透析治療をする前と透析が始まってから、体調の変化を感じている方も多いと思いますし、実際に毒素の急激な除去や除水で大きく変化するわけですから、体調が変わったと感じても不思議ではありません。しかし、その一方で、全く別人になったわけではないということも忘れてはいけません。

透析患者さんも体調次第で体重が変化する

人はだれでも日々体調が変わります。「雨の降る前は頭痛がする」「疲れると顔と足がむくんで体重が増える」といった話もよく聞きます。誰でも風邪を引いて寝込んだり、下痢をしたり、便秘をしたりします。そしてその時には、体重の1kgや2kgは、増えたり減ったりしています。
これは健常者にとっては当たり前のことですが、透析患者さんにとってはどうでしょう。もちろん、透析患者さんにとっても当たり前のことですよね。ところが、血液透析患者さんにはドライウェイト(透析後目標体重)というのがあり、月単位でのドライウェイトの変更はあるものの、日々変更しているという施設はまずありません。健常者では1~2kgの日々の変動は当たり前なのに、透析患者さんだけ毎日同じ体重でなければならないというのは、ちょっと不自然な気がしますね。

体調が悪くなると体がむくむというのは、防御反応として水分をため込んでいるという側面があります。そのため顔がむくみ、体は重く頭痛がして、これは「休養をとりなさい」というサインにほかなりません。休養をとり体調が回復すると、自然にむくみがとれて、体重がもとに戻ります。

図:頭痛やむくみは休養のサイン

こんな時に、体重が増えているからと、ドライウェイトまでしっかり除水するとどうなるでしょう。便秘が続いている時に、ドライウェイトまでしっかり除水するとどうなるでしょう。
いつもは透析中に血圧が安定している患者さんが、不意に血圧が下がりショック状態になることがあります。その時々の体調に関係なしに、同じドライウェイトでやっていることの弊害ではないかと思います。

日々の体調を透析に反映させるために

日々の体調の変化を一番知っているのは誰でしょうか。それはもちろん患者さん本人です。私たち医療者は、患者さんがいつもよりむくみっぽい、体重が増えている、熱があるなどを手がかりに、患者さんの体調を推測します。
しかし、たとえばそれがベストの体調なのか、70%ぐらいなのか、半分ぐらいなのかなど、細かなところまではわかりません。だから教えてもらうとありがたいのです。「私はこのぐらいの体調の時にはいつも体重が0.7kg増えるのよ」と教えてもらえれば、「じゃあ今日は0.7kg残してかけますね」−−これが普段の会話になるとよいと思っています。

日本全国には4,000を超える透析センターがあり、日々の除水設定やドライウェイトの決め方は、それぞれのセンターでかなり違いがあります。上述の様に、患者さんとスタッフで相談して決める施設もあれば、除水を残すときは必ず医師の許可が必要なところもあります。ドライウェイトも、0.5kg単位から0.1kg単位のところまであります。
これには、絶対にそうでなければならないという規則はありません。しかし、体調は日々違うこと、その人の体調はその人が一番知っていることを考えると、どのようにしたらよいかは決まっているのではないかと思います。

透析は、体調管理や透析条件を確認・調整する絶好の機会

ここまで、日々の体調をチェックして、医療者に伝えることが大切だとお話ししました。そのためには、医療者と相談の上、いろいろな挑戦や実験をしてみることが役に立ちます。塩分摂取量を変えて体重変化を観察したり、ドライウェイトや透析条件を変更して透析後の元気度をチェックしてみたりなど、透析医療には、実に多くの挑戦や実験の機会があります。

新しい挑戦や実験の結果を評価するときに重要な指標は、「症状がなく、より元気な毎日を送れるかどうか」です。痛みやかゆみ、疲労感のない透析で、元気に毎日過ごすことが、長生きの秘訣だからです。
そのためには、ドライウェイトや透析方法といった治療方法の変更が、皆さんの日々の体調や生活をどのように変えたのかを情報交換し、よりよい条件を相談して決めていくというのがよいでしょう。皆さんの日々の体調管理とそれを私たちに伝えることが、より元気な毎日を過ごすための最初の一歩になります。

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