透析の合併症

透析療法の合併症

土谷 健 先生

2016.04.01

土谷 健 先生(東京女子医科大学 教授)

排泄以外にもある、腎臓のさまざまな機能

腎臓はソラマメのような形で背中の側にある臓器なのですが、血液がこの中に大量に入り込んで、体に生じた毒素や余計な水分をろ過し、尿として排出するという働きを担っています。
さらに、この老廃物と過剰な水分の排泄に加えて、腎臓は思わぬ機能を備えています。それは排泄器官として尿を出す際に、体液量やミネラルの状態を把握し、それらを調節する仕組みを獲得しているということです。体の水分や塩分量を調節したり、造血を刺激するホルモンを分泌して血液量を増減したりするほか、ビタミンDを活性化して骨の形成にも関わっています(図)。

図:腎臓の排泄以外の機能

腎臓の完全な代替ではないために起こる、透析の合併症

腎機能が廃絶して透析状態にはいると、老廃物である尿毒素の排泄は、正常な腎機能にはおよびません。加えて、腎臓が機能している間は絶え間なく尿を産生するのに対し、一般的な血液透析では週3回・4時間と限られた時間に限られた透析量しか確保できません。
各透析と透析の間は、水分を含め種々の物質が体内に保持され、それが負荷となります。例えば、透析開始時に3kg体重が増えている患者さんでは、この溜まっている水分は、心臓、血管系に負担となっているのです。
また、現在の透析は水分と毒素の除去に主眼がおかれているため、腎臓のもつさまざまな機能を完全に代替わりすることができず、いわゆる透析の合併症が生じることになります。特に透析の期間が長くなると、臨床的にいろいろな症状が出現します。

合併症は透析の導入前からはじまっている

最近は、透析になると突然合併症が出現するわけではなく、CKD(慢性腎臓病)の段階ですでに合併症がはじまっており、透析導入でそれが顕性化すると考えられています。
主な合併症を図に示します。高度の高血圧や塩分貯留などによる全身の心血管系の障害(脳卒中や心筋梗塞、不整脈など)は、生命予後に強く影響します。また、ビタミンDの活性化障害とリンの排泄障害によるCKD-MBD(慢性腎臓病関連ミネラル・骨病)は、骨のもろさや血管の石灰化を招き、循環系に影響します。さらに、腎から分泌されるエリスロポエチンという造血ホルモンの量が低下すると、腎性貧血も生じます。これらはCKDによくみられる合併症で、すでに保存期にははじまっています。
一方、尿毒素の一つであるβ2ミクログロブリンが変性して関節や骨に沈着する透析アミロイドーシスは、時間がある程度経ってから発生する特異な合併症です。 以上のような合併症に加えて、腎不全であること自体が、感染などに対する免疫機能が低下した状態であるといわれるほか、脂質の代謝障害や栄養状態不良などの潜在的な合併症も加わっていると考えられています。

図:透析の主な合併症

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