腎性貧血(2)治療

透析の合併症

腎性貧血(2)治療

花房 規男 先生

2017.03.03

花房 規男 先生(東京女子医科大学 准教授)

「腎性貧血(1)原因と検査」のところでもお話ししましたが、透析患者さんの貧血は、エリスロポエチンの不足と、鉄欠乏が主な原因ですので、それらへの対策が取られます。

腎性貧血の治療目標値

透析を受けている、または慢性腎臓病の患者さんが、貧血に対してヘモグロビン(Hb)を正常値まで増加させようとしても、あまり利点がないばかりか、むしろ合併症が増加する可能性が示されています。このため、Hb値の目標値は、正常よりやや低めに設定されています(表)。

表:腎性貧血のHb目標値

この目標値を目指して、赤血球造血刺激因子製剤(ESA)と、必要に応じて鉄剤を使用します。

腎性貧血の治療:赤血球造血刺激因子製剤(ESA)

エリスロポエチンはたんぱく質からなるホルモンですから、内服しても消化・分解されてしまいます。このため、注射で直接、体の中に入れなければなりません。血液透析の場合には、回路から投与されますが、腹膜透析あるいは保存期腎不全の場合には、皮下注射で投与されます。
エリスロポエチンには、表に示すように、もともと体内にあるエリスロポエチンと同じ物を製剤化したものの他に、構造を少し変更することで、半減期(体のなかで分解されて、濃度が半分になるまでの時間)を長くしたものがあります。後者では、週1回、月1回の投与で効果がみられるようになっています。構造を変化した薬剤は、厳密な意味では「エリスロポエチン」ではないので、エリスロポエチン作用を補うために使われる薬剤を総称して、赤血球造血刺激因子製剤(ESA)と呼ぶことになっています(表)。

表:赤血球造血刺激因子製剤(ESA)

ESAの量は、Hb値によって調整します。Hbが低下した場合には、ESAの量を増やしますし、Hbが上昇した場合には、ESAの量を減らします。ダルベポエチン(ネスプ)、エポエチンベータペゴル(ミルセラ)では、添付文書に、増量・減量の方法が書かれています。

腎性貧血の治療:鉄剤の使用

鉄については、トランスフェリン飽和度(TSAT)とフェリチンをもとに必要性を考慮します。フェリチンが50ng/mL未満の場合には、鉄剤の使用を考慮します。一方、Hb値が維持できない場合に、フェリチンが100ng/mL未満で、かつ、TSATが20%未満であれば、鉄剤の使用が推奨されています。Hb値が維持できない場合で、フェリチンが100ng/mL未満か、あるいは、TSATが20%未満の場合には、鉄剤の使用が検討されるとしています。
鉄剤には、注射薬と、内服薬があります。ガイドライン(*)では、内服薬をまず考慮するとしていますが、内服薬で貧血改善がみられない場合や、内服が困難な場合には、注射薬を使用します。
鉄欠乏には鉄の補充が必要ですが、逆に、鉄の過剰症に対する問題点も注目されています。ガイドライン(*)でも、フェリチンが300ng/mL以上にしないようにすること、静注鉄剤の場合にも13回を区切りとすること、HDの場合には週1回使用すること、としています。

* 日本透析医学会, 2015年版 慢性腎臓病患者における腎性貧血治療のガイドライン. 透析会誌 49(2): 89, 2016

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