動脈硬化が起こる原因とメカニズム
一般に、動脈硬化の危険因子とされているのは、高血圧、喫煙、高脂血症です。これらに加えて、透析の患者さんでは、尿毒素の貯留、カルシウム/リン代謝異常、体液量の増加などが、動脈硬化の促進に影響しているとされています。(図)
腎機能正常者の場合は、動脈硬化が進むと、血管の内側(内膜)にコレステロールや脂肪が沈着して血管の内腔が狭くなってくるのですが、透析患者さんの動脈硬化は多少違っていて、血管壁の中膜が硬化した病変が多いという特徴があります。
また、動脈硬化に深くかかわる要因として最近指摘されているのが、血管石灰化です。透析の患者さんでは、特にミネラル(リン・カルシウム)の代謝バランスが崩れやすく、その結果生じる血管の石灰化が多くみられます(図)。
その原因として特に重要と考えられているのが、血清のリンの値です。リンは生体の細胞に不可欠な物質で、DNAを構成する核酸やエネルギーのもとであるATP(アデノシン3リン酸)に使われています。生体に吸収されたリンは、それでも過剰になれば、腎臓から尿中に排泄されて容易に調節がされるしくみが備わっているのですが、腎臓が悪くなって尿への排泄が減少したり、特に透析の患者さんでそうした調節機構が破綻すると、とたんに過剰になってしまいます。すると、さまざまな障害、特に血管石灰化に大きく関与するのです。
動脈硬化の症状
透析患者さんの死亡原因の第1位は、一貫して心不全です。心血管疾患を起こす原因はさまざまですが、その中には心臓の血管(冠動脈)の動脈硬化や石灰化、心臓弁の石灰化(弁の動きが悪くなる)などが含まれます。これに脳血管障害を加えると、いかに心血管病変が透析患者さんの予後に関わっているかがわかります。
動脈の内側に脂肪やカルシウムが沈着すると、動脈の内径が狭くなります(図)。そのため、血管が詰まる病気になることが多いのです。
動脈硬化が進むと、脳梗塞や心筋梗塞を引き起こします。めまい、しびれ、半身の麻痺、歩行障害などのさまざまな神経症状や、息切れ、胸痛などの冠動脈の症状がみられます。
また、以前は重症の糖尿病の患者さんにみられた下肢の壊疽は、動脈の血行障害、閉塞によるものですが、透析の患者さんでも同様の病態が増加しつつあり、特に高齢の患者さんでの頻度が増加しています。例えば、足の血流不良、しびれや痛み、歩行障害、潰瘍などです。一定の距離を歩くと必ずふくらはぎが痛くなって、しばらく休むと歩けるようになる間欠性跛行は、有名な症状です(図)。