かゆみを訴える透析患者さんの割合
国内外の疫学調査では、7割から8割の透析患者さんが、なんらかの程度のかゆみを自覚していると報告されています。そして、4割以上の患者さんが中等度以上のかゆみを感じているとされています*。
中等度以上のかゆみは不眠をもたらし、生活の質を大きく損なうばかりか、かゆみの強さは生命予後に関係するという報告もあります。
透析患者さんのかゆみの原因
透析患者さんのかゆみの原因は、腎不全に起因するものと透析療法に起因するものがあり、両者が混在しています(表)。
それぞれを具体的に説明すると、
【原因1】皮膚の乾燥などによる皮膚バリア機能の破綻
透析患者さんの皮膚は、肌にうるおいを保つ機能や外部からの刺激を防ぐ機能が低下しています。
【原因2】かゆみを感じる神経系の異常
かゆみを伝える神経が通常よりも皮膚の表面近くに伸びていて、外部からの刺激に敏感になっているほか、かゆみ物質がより多く分泌されていたり、その受容体に異常があったりすることがわかっています。
【原因3】尿毒症性物質の蓄積
かゆみの原因となる物質は特定されていませんが、中~大分子量の尿毒症物質が関係していると考えられています。
【原因4】透析療法に関係するもの
血液が透析膜や回路と接触することで、補体やサイトカインが活性化してヒスタミンなどのかゆみ物質が放出したり、アレルギー反応が原因でかゆみが起こる場合もあります。
【原因5】カルシウム・リン代謝異常
血清カルシウムやリンの高値、副甲状腺ホルモン(PTH)の上昇(二次性副甲状腺機能亢進症)は、かゆみの原因になります。
【原因6】その他
使用している薬剤へのアレルギーや、穿刺針・回路の固定用テープや止血用のパッチ、穿刺時の鎮痛用テープ、消毒薬に対するかぶれなども考えられます。
かゆみの解決策
基本的には、上述の原因に対応することになりますが、原因が多岐にわたる場合やはっきりしない場合も多いです。ただ、全てに共通してまず行うのは【原因1】への対策です。
【原因1:皮膚の乾燥などによる皮膚バリア機能の破綻 への対策】
保湿を中心としたスキンケアを行います。保湿剤で効果が不十分な場合や湿疹を伴う場合は、ステロイド含有剤を併用します。
それでも効果が不十分な場合は、不要な内服を防ぐためにも、かゆみの原因を考慮した治療を行います。きついドライウエイトも乾燥の原因になりますので、適宜調整してもらってください。
【原因2:かゆみを感じる神経系の異常 への対策】
内服薬などを検討します。抗ヒスタミン剤や抗アレルギー剤を使用し、効果がない場合はナルフラフィン塩酸塩(レミッチ®)を内服します。
【原因3:尿毒症性物質の蓄積 への対策】
かゆみの原因となる尿毒症性物質を効果的に除去するため、長時間透析、頻回透析、PMMA膜を用いた透析、オンラインHDF等も有効です。
【原因4:透析療法に関係するもの への対策】
ダイアライザーの変更(生体適合性の良い膜の選択)や、ヘパリン以外の抗凝固剤への変更を行います。EOG滅菌をしている透析素材が原因の場合は、使用を中止します。
【原因5:カルシウム・リン代謝異常 への対策】
十分な透析ができていることを前提に、まずリンを制限した食事内容への変更やリン吸着剤を使用します。二次性副甲状腺機能亢進症がシビアでリン、カルシウムが食事やお薬でコントロールできない時は副甲状腺全摘出術が必要になることもあります。
【原因6:その他(アレルギーやかぶれ) への対策】
透析患者さんは内服薬が多いため、薬へのアレルギーでかゆみが出る場合もあります。また、鎮痛用テープや固定のテープでかぶれる場合もありますので、適宜変更してみて下さい。
患者さんができるかゆみの対処法・予防策など
乾燥が一番の敵ですので、こまめに保湿剤を使用し、スキンケアをしましょう。
入浴時に使用する石鹸は、肌にあった刺激性の弱いものを使いあまりゴシゴシ洗わないようにしましょう。入浴後早めに保湿剤を塗布すると、保湿効果が高まります。
リンが高めの方は、食事の管理をしっかりとして、透析時間が少ない方は透析時間を延ばしてみるのも手です。
* 大森健太郎ほか, 透析皮膚掻痒症の実態:新潟県内41施設2474名の調査報告, 透析会誌 34: 1469, 2001