透析の合併症

不均衡症候群 〜透析導入期に見られる合併症

花房 規男 先生

2016.12.22

花房 規男 先生(東京女子医科大学 准教授)

不均衡症候群とは?

不均衡症候群は、透析を新たに始められる導入期の合併症として有名です。透析終了時から頭痛・嘔気、痙攣などの中枢神経症状や、こむらがえりなどの症状を認めるものです。
通常は一過性で、数時間程度で回復しますが、高度な場合には様々な合併症・後遺症を生じることもあり、予防が重要です。

不均衡症候群の原因

この不均衡症候群の原因は明らかになっていない点も多いのですが、細胞内外に不均衡がみられることが大きな原因の一つとして考えられています。こうした不均衡には、(1)浸透圧、(2)酸塩基平衡(体液の酸性・アルカリ性のバランス)がありますが、このうち (1)浸透圧 の不均衡が大きな影響を持っている可能性が考えられています。

浸透圧の不均衡とは

浸透圧は、水溶液の中に、水をとどめようとして働く力です。このため、浸透圧が高い水溶液と、低い水溶液があると、浸透圧が低い方から高い方へ水を引っ張ってきます。腹膜透析では、糖の浸透圧によって除水を行っていますし、たとえは悪いのですが、漬け物では、食塩によって水が野菜から除かれます。
透析導入期には、保存期腎不全の間に、長時間にわたって徐々に老廃物が蓄積してきています。こうした老廃物は浸透圧を持つのですが、細胞内外に均等に老廃物はたまります。

一方、血液透析では、血液からしか老廃物が除かれません。細胞外の体液(細胞外液)にたまっているものは、比較的速やかに血液透析で除かれるのですが、細胞内の体液(細胞内液)に蓄積している物質は、いったん細胞から外に出て、血管内に移動することにより、初めて血液透析で除去されます。このように、細胞内液の老廃物は血液透析による除去はあまり速やかには生じません。
以上のことから、細胞外の老廃物は除去されているが、細胞内には老廃物がたまっているという状態が起きてしまいます。老廃物は浸透圧を持つので、細胞内の浸透圧が高く、細胞外が低いという不均衡が生じてしまうのです。そうすると、浸透圧に引かれて、細胞外から細胞内へ水が移動し、細胞がむくんできます(図)。

図:浸透圧の不均衡によって細胞のむくみが生じる

特にこれが脳細胞で起きると、脳が腫れようとします。しかし、脳は頭蓋骨の中にあるため、結果的に頭蓋骨の中の圧力が上昇します。これが「脳圧亢進」「頭蓋内圧亢進」状態と呼ばれるもので、症状としては、頭痛・吐き気・嘔吐、重症の場合には意識状態に影響を認め、非可逆的になってしまうこともあるのです(図)。

図:脳圧亢進による症状

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