「腎不全における再生医療の最前線」第61回日本透析医学会学術集会・総会レポート

MediPressリポート

「腎不全における再生医療の最前線」第61回日本透析医学会学術集会・総会レポート

北村 悠樹 先生

2016.08.05

北村 悠樹 先生(かつら透析クリニック 院長)

2016年6月10日〜12日に大阪で開催された「第61回日本透析医学会学術集会・総会」。学会3日目の午後には、「腎不全における再生医療の最前線」についてのワークショップが行われました。
司会は大分大学医学部附属臨床医工学センター 友 雅司先生と、東京慈恵会医科大学 横尾 隆先生で、6人の演者による講演がありました。

現在の腎不全における再生医療は、目覚ましい発展を遂げています。司会者の横尾先生いわく、「10年前には腎臓が再生することは想像もできなかった」そうです。
再生医療に携わっている先生からもこうしたコメントがあるほど、各講演は、再生医療の進歩を感じさせるものでした。

◆「慢性腎臓病から透析までの包括的腎臓領域再生医療に向けて」
岡山大学病院 腎臓・糖尿病・内分泌内科  喜多村 真治 先生

最近の再生医療は、角膜や心疾患は臨床応用できるレベルまで到達している一方、腎臓はまだ基礎研究の段階だそうです。
腎不全治療をターゲットとした再生医療研究は、次の2つに分けられるとのことです。

① 腹膜の再生
腹膜透析治療で避けられない大きな問題は、腹膜の劣化です。腹膜機能が低下すると、血液透析への移行を余儀なくされます。
そこで発表者らは、腹膜中皮細胞に注目し、腹膜を再生する研究を行ってきたそうです。
具体的には、腹膜透析の排液に含まれる腹膜中皮細胞を採取し、選別をした上で、あらためて移植する(腹膜に戻す)のです。
研究の結果、腹膜中皮細胞を選別し移植することで、腹膜機能が重症化するのを防ぐ可能性が示唆されたとの報告でした。

② 腎臓そのものの再生
発表者は、成体腎臓の再生能に着目し、成体腎臓幹/前駆細胞様細胞(KS細胞)と呼ばれる細胞の樹立を行い、可能性を模索してきました。
その結果、試験管レベルで臓器作製を試みたところ、三次元的な腎臓構造再構築に成功し、その構造は糸球体から近位尿細管~ヘンレのループ、遠位尿細管、集合管、腎杯様構造を伴った腎臓の構造に類似していたとのことです。光学および電子顕微鏡レベルでも、腎臓の構造を持つことが確認されました。

ただ、こうした試験管レベルでの作製は、ほかにも多数報告されていますが、現段階では臨床レベルには至っておらず、今後の研究課題だと話されていました。

◆「傷害腹膜における中皮細胞シートの再生ならびに癒着防止効果」
東京女子医科大学 臨床工学科 崎山 亮一 先生

主に腹膜透析にまつわる再生医療の報告でした。腹膜透析の課題は、

長期腹膜透析の患者さんに起こる、被嚢性腹膜硬化症(EPS)への対策
腹膜機能の回復
腹膜劣化を回避可能な腹膜透析液の開発

の3つです。このうち、①と②に注目した、動物実験の報告がありました。

発表者らは、脱落した中皮細胞(腹膜組織)を補うことで、腹膜の再生が促進されると考え、組織化した細胞を無侵襲で回収し、移植できる「細胞シート」を作製しました。それが、傷害腹膜の再生や、傷害腹膜の癒着防止につながるかを実験しました。
研究の結果、「細胞シート」は、単離細胞移植(細胞シートにしない移植)よりも腹膜の傷害改善を促進させ、傷害腹膜の再生や腹膜癒着に効果的だったそうです。
つまり「細胞シート」は、「① 被嚢性腹膜硬化症(EPS)の治療」「② 腹膜機能の回復」に役立つ可能性があるということです。
ただ、臨床応用では腹膜機能がまだ評価できていないため、今後の研究課題であるとのことでした。

◆「HGF再現細胞シートによる腎線維化抑制効果」
東京女子医科大学 第四内科 岡 雅俊 先生

慢性に進行する腎障害に共通するメカニズムの一つ、「腎間質線維化」に注目した内容でした。
腎障害が進行すると、腎臓内で「間質線維化」という現象が起こります。この線維化を抑制すれば腎不全を防止できることが、今までの研究で明らかになっています。
その線維化を抑える役割をするのが、「HGF遺伝子」と呼ばれる遺伝子です。

ただ、HGF遺伝子は、注射で体内に投与しても血液中からすぐに消失してしまうため、目的臓器(腎臓)に到達することができません。
そこで発表者らは、腎臓の表面にHGF遺伝子を培養した「細胞シート」をそのまま置くという実験を、動物で行いました。
研究の結果、移植された「細胞シート」は4週間残存し、腎線維化を防ぐ長期間の効果もありました。つまり、「細胞シート」を利用したHGF遺伝子の局所・持続的投与が、効果的な腎機能保護治療法となる可能性が示唆されたのです。
今後は、「細胞シート」による治療を、間質線維化を伴うほかの腎疾患へ応用していきたいとのことでした。

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