2016年9月8〜10日、第34回国際血液浄化学会(International Society of Blood Purification:ISBP)総会が広島国際会議場で開催されました。
ISBPは1983年に設立された、血液浄化療法の発展を目指す国際的な組織です。医師らが治療経験や新しい治療法の成果を発表・討論する「総会」は、世界の透析事情を知り、日本の現状と比較できる貴重な機会です。過去に何度か日本でも開催されており、今年は「MediPress透析」監修医である川西秀樹先生が大会長を務めました。
演者にはヨーロッパ、米国、アジア各地と、世界の腎臓専門医らが名を連ね、採り上げられるテーマも、血液浄化療法の最新技術や腎疾患の最新の知見、関連合併症、患者さんの生活の質(QOL)と多岐に渡っていました。
その中で、編集部は2つのテーマに注目しました。
◆世界の透析人口のこれから 〜新興国の急激な伸び
わが国の透析患者数は年々増加の一途をたどり、2014年の段階で32万人を超えました。ただ、ここ数年は増加率が鈍り、数年後には減少に転じると予測されています。
一方、世界全体でみると、透析患者数は今後ますます増加するといわれています。その理由は新興国、特に中国とインドの透析患者の爆発的な増加にあります。
ある講演によると、1970年代に血液透析がスタートした中国では、ここ数年、中国経済の発展や政府の積極的な政策が功を奏し、透析医療が急激に進んでいるそうです。情報のシステム化により患者データが管理され、透析患者数は2011年で約23万5,000人、2015年には38万5,000人を超え、もはや日本を追い抜いている状況です。
同時に、中国は透析の質の向上にも積極的に取り組んでおり、都市部での治療成績は良好とのことです。ところが、地方部での医療レベルはハード面、ソフト面ともに低く、地域格差が大きいとのことでした。
中国では今、1億2,000万人がCKDに罹患し、100万人が末期腎不全(ESRD)と予測されています。それはすなわち、腎代替療法に至っていない患者さんが膨大な数存在していることを意味します。
広大な国土でどこまでカバーできるか、そして全体の水準をいかに引き上げ均てん化できるか。巨大な国が抱える課題は、医療にもそのまま当てはまるようです。わが国の透析医療の輸出先でもある中国の、今後の動向が注目されます。
◆在宅血液透析の普及
先進国では近年、在宅血液透析の普及が急激に伸びているそうです。自宅に透析機器を設置し、患者さんが自ら透析を行うこの治療法は、透析回数や時間を増やして十分な量の透析が行える点、時間が自由に使える点など、患者さんの生命予後や生活の質(QOL)の改善につながるとして注目されています。
ただ、一方で、自宅に透析機器を設置するスペースや改装工事が必要なことや、自己穿刺への心理的抵抗など、導入への課題があるのも実情です。
そのような中、ある講演で「コミュニティハウスHD」というものが紹介されていました。これは、ニュージーランドやオーストラリアで実際に行なわれている方法で、地域に血液透析機器のある建物(コミュニティハウス)を設置し、そこへ患者さんが通って血液透析を行うというものです。
コミュニティハウスには医療スタッフはおらず、あくまで患者さん自身(または付き添いの家族)が透析を実施します。透析専用の“シェアスペース”を用意することで、在宅透析のハード面でのデメリットを見事に解決した、実にユニークな発想です。
なお、この講演では、さまざまな血液透析の方法が紹介されていました。いわゆる医学的視点による区分ではなく、「透析を実施する場所」と「誰が透析を実施するか」という観点での分類です。具体的には以下の通りです。
・ 施設で患者さんが実施する
・ 施設で医療者が一部介助しながら行う
・ 自宅で患者さんが実施する
・ 自宅で医療者が一部介助しながら行う
・ コミュニティハウスで患者さんが実施する
現在、わが国では、施設血液透析が圧倒的多数を占めています。2015年の米国腎臓データベース(USRDS)の調査に基づくと、主要国の中で最も在宅透析実施件数の少ない国が日本なのだそうです。
もちろん、その背景には、日本の施設血液透析のレベルの高さ(透析施設の数が多い、医療技術が高いなど)や日本固有の保険制度、治療に対する国民の考え方など、さまざまな要因が関わっているため、一概に世界と比較することはできません。また、先に挙げた「コミュニティハウスHD」も、日本で実現するにはいろいろな壁があるでしょう。
ただ、「透析先進国」と呼ばれる日本で、生活スタイルを軸とした「方法論」がもっと議論されれば、今以上に選択肢が増え、より患者さん自身や家族に合った透析が実現できるのではないかと感じた次第です。