高齢者の透析の目的
ここで、あらためて高齢者の透析の目的を考えてみたいと思います。
まず1つ目に挙げられるのは、「生命の維持」です。末期腎不全になると、水分や尿毒素などが蓄積し、生命を維持できなくなります。そのため、透析の開始基準を満たした場合には、高齢者を含むすべての患者さんに対し、腎臓の機能を代行する透析を開始して継続しなければなりません。
そして2つ目は、「安楽」です。透析とともに過ごす第2の人生が、人生の終盤を迎える高齢者の生活の質と、生命の質を維持できるようにするのです。
高齢者が透析を続ける上での課題
ただ、高齢者が透析治療を続けるには、さまざまな課題があるのも事実です(図)。そうした問題を知り、あらかじめ対応を考えておくと安心です。
医療面の課題
高齢者は、心血管病や骨関節疾患などの複数の合併症を持っていることが多く、合併症の数が多いほど生命予後が悪くなります。特に、慢性の合併症の場合には、「治す医療(キュア)」から、「完治できなくても、医療的・心理的援助を含む看護・介護・世話(ケア)」という視点に変えることが必要です。
また、高齢者が入院すると、たとえ病気の治療には成功したとしても、介護の必要な状況になってしまったり、認知症が進行してしまうことがあるので、できるだけ早期の退院を目指します。
生活面の課題
透析患者さんは栄養障害に陥りやすく、特に高齢者は食も細くなります。その結果、筋肉量や脂肪量が減り、将来、介護が必要な状態になる可能性が高まります。
運動機能や認知機能、自発性などの違いから、高齢者といっても、活動的な方から自分では手足を動かせない寝たきりの方まで様々ですが、できるだけ自立した日常生活動作(ADL)を維持できるように、栄養状態をよくして、適度な運動を行うことが重要です。
精神面の課題
透析を受けることや将来への不安が、精神面に悪影響を与えます。また、心は身体とつながりが深く、かゆみや不眠症などの身体的要因も、精神面に悪影響を与えます。
高齢者では、加齢による記憶力の低下だけではなく、脳の動脈硬化やアルツハイマー病による認知症にも注意する必要があります。
大切なのは、合併症の出現を極力おさえて、高齢者が活動的な生活を安心して送れるようにすることです。そのためには、十分な透析が重要です。腰痛などでベッドに長時間横になっているのがつらくても、最低4時間の透析は受けるようにしましょう。また、食事療法、運動療法、薬物療法をきちんと守りましょう。