在宅血液透析の実施条件

透析療法の基礎知識

在宅血液透析の実施条件

若井 陽希 先生

2016.12.09

若井 陽希 先生(品川ガーデンクリニック 院長)

(3)それなりの研修期間・準備期間が必要です

在宅血液透析を始めるためには、十分な研修が必要です。不十分な研修で在宅血液透析を始めることは大変危険です。当院では、独自マニュアル等を活用し、最短の研修期間で在宅血液透析に移行できるようにしていますが、通常は少なくとも週3回2カ月間の研修期間が必要です。状況によってはさらに研修期間が必要となることもあります。研修期間中は、週3回通院していただき、通院血液透析を受けながら研修を進めることになります。(短期間の入院の上、研修を実施している施設もあります。)

(4)自宅での準備が必要です

どのような体勢(座位、臥位等)で在宅血液透析を行うかにより異なりますが、治療スペースとして2畳分程のスペースが必要です。また、物品の保管場所としてさらに2畳分程のスペースが必要です。電気は、60A以上に容量を増加させる必要がありますが、通常は大きな工事なしで可能です。また、できれば、在宅血液透析機器専用のブレーカーがあることが好ましいです。水道及び排水については、在宅血液透析専用の配管を在宅血液透析機器のところまで工事をして持ってくることが好ましいですが、洗濯機用の水道や排水口を使用することにより、工事なしで行うことも可能です。
なお、できるだけ室内の改修を行わない方法を選択することで、賃貸マンションでも在宅血液透析を実施することが可能です。実際に、賃貸マンションで在宅血液透析を行っている患者さんも多数おります。
ただし、貸し主の方や管理組合等との調整を事前に十分に行い、トラブルが発生しないように注意する必要があります。

(5)保険が適応される治療ですが、多少の費用はかかります

通院血液透析と同様に、在宅血液透析も健康保険が適応となります。このため、医療費については、「自己負担なし」または「所得に応じた一定額の自己負担(通常1~2万円/月)」となります。しかしながら、自宅への透析関連機器の設置に関わる準備費用や在宅血液透析開始後の水道・光熱費は、患者さんの負担となります。
透析関連機器の設置に関わる準備費用としては、電源容量の増量、電源コンセントのアース対応化、透析装置専用のブレーカー設置、自宅透析室への給排水路整備、水道の圧を調整する弁やポンプの設置が挙げられます。それ以外に漏水(水漏れ)警報器等を希望で設置する場合は、別途費用がかかります。
在宅血液透析開始後の維持費は、水道・光熱費以外は通常不要です。水道・光熱費は透析を実施する頻度等によって異なりますが、概ね在宅血液透析開始前の1.2~1.5倍となるようです。但し、年1回、排水管の高圧洗浄が必要です(図)。

図:在宅血液透析にかかる費用

なお、機器の設置、機器交換、機器の撤去については通常費用はかかりませんが、引っ越し等の患者さん都合による設置場所移動は、原則として患者さんの費用負担で実施していただくことになります。

このように列挙すると、在宅血液透析には多少お金がかかるように思えますが、通院にかかる費用は大幅に少なくなります。また、在宅血液透析によって仕事や生活が円滑に行えることによる経済的メリットは、非常に大きなものです。この点も十分に考慮すべきでしょう。

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