透析療法の基礎知識

生活の質と透析の質

政金 生人 先生

2016.07.15

政金 生人 先生(矢吹病院 院長)

血液透析治療も腹膜透析治療も、健常な腎臓に比べると毒素の除去が不足しており、それが合併症やさまざまな愁訴の原因になっていることをお話ししました(記事「透析をするということ」)。ただ、近年は治療方法が発展し、限られた範囲内でも透析の質を高め、活気のある日常生活を送れるようになってきました。
透析患者さんが健康的で質の高い日常を送るためには、いろいろな治療方法を知り、自分に合った質の高い治療法を見つけることが大切です。そして透析治療の質だけでなく、自分の生活態度を見直すこともとても大切です。

限られた治療条件の中で透析の質を高めるために 〜オンラインHDF

血液透析で治療の質を高めるもっとも確実な方法は、透析時間と透析回数を増やすことです。しかし実際には、透析施設や仕事や家庭環境の制約により、すべての患者さんが透析回数と時間を増やせるわけではありません。
そうした限られた治療条件下で透析の質を高める方法として、「オンライン血液濾過透析:on-line hemodiafiltration (HDF)」があります。この治療法は、2012年の診療報酬の改訂後から急速に伸びており、現在では全国で36,000人が受けています。
オンラインHDFは、通常の血液透析では除去が難しいリンやカリウムなどよりも大きな毒素を除去することができます。それにより、透析患者さん特有の皮膚のかゆみやイライラ、むずむず足症候群に有効であると報告されています。皆さんも何か症状があれば、オンラインHDFができるかどうか、主治医に相談してみたらいかがでしょうか。

人生の目的や物事の大切な順番を崩さないために 〜ハイブリッド治療

透析開始時の平均年齢が70歳に近づいているとはいえ、就学・就業年齢で透析治療を始める患者さんもまだまだたくさんいます。多くの患者さんは、腹膜透析や夜間透析を行いながら通学・通勤します。
しかし地域によっては、「夜間透析を行っている施設がない」「あってもベッドが一杯で隣町まで行かなければならない」という話をよく聞きます。腹膜透析は就学・就業時には有効ですが、腎機能が低下してくると透析不足になることがあり、また腹膜炎の時は入院を余儀なくされることがあります。
「仕事に絶対穴を空けられない」。「学校を休みたくない」。こんな時には、腹膜透析と血液透析のハイブリッド治療が役に立ちます。たとえば、夜寝ている間に自動腹膜透析装置で治療し、日中はバッグ交換を行わず、仕事をして家に戻ったらバッグ交換をする。透析量が不足してきたら、週1回の血液透析でコントロールするのです。運悪く腹膜炎になったら、血液透析を行いながら腹膜を休ませる。こんな風にすると、仕事や学業への影響を最低限に抑えることができます。

図:透析療法を組み合わせるのも一つの方法

生活の質を上げるということは、「自分の人生の目的や物事の大切な順番を崩さない」ということです。そのためには、柔軟な考え方で、利用できる治療法を組み合わせればいいわけです。

生活態度、特にクスリとの関係を見直す

透析患者さんが健康的で質の高い日常を送るためには、透析治療の質はとても大切ですが、同時に自分の生活態度、特にクスリとの関係を見直すことが重要です。

透析患者さんに限らず、だれでも歳をとればあちこち痛くなります。透析施設や整形外科から鎮痛薬や湿布をたくさん処方してもらい、あちこちベタベタ張っている患者さんがいます。湿布は貼った瞬間にスーッとするので治ったように錯覚しますが、ずっと貼り続けているわけですから、痛みの原因が治ったわけではありません。
慢性の腰痛や肩の痛みの原因の多くは、筋肉の血流障害による硬直(コリ)です。鎮痛薬や湿布は、体温を下げ、血流を悪くするので、かえって治りを悪くします。体をあたため筋肉をほぐす運動をする、筋力を鍛える、常に姿勢を正しく保つ。このように注意するだけで、改善する痛みが多いのです。けれどなかなか続きません。自分で努力することはなかなか続かないのです。湿布を処方してもらう方が楽だからです。

国民皆保険の医療保険制度では、患者さんの自己負担が非常に低く抑えられています。これは世界に誇るべき、今後も守るべき日本の財産ですが、現在財政が悪化しているのは皆さんご存じですよね。
医療費が安いから患者さんは安易にクスリに頼る、病院もクスリを出した方が儲かるからどんどん処方する。このような“持ちつ持たれつ”の関係は、もう終わりにしなければいけません。慢性的な痛み、睡眠障害、風邪症状、便秘など、生活態度を見直すことで改善できることがたくさんあるのです。

透析治療は「あなたのベスト」を探しあてる共同作業

透析は人生の「目的」ではなく、皆さんが自分の人生の目的や楽しみを求めていくための「手段」です。だから、透析を最優先に自分のライフスタイルを制限するのではなく、「自分の望むことをするためにはどんな風にしたらよいか」と考えるのです。

私たちは、皆さんのやりたいことを可能にする、最も適した治療方法を提案したいと思います。皆さんの希望と日常感じること、自分の体調の変化を私たちに伝えてください。透析治療とは、そんな風に話し合いながら、あなたのベストを探しあてる共同作業なのです。

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