透析患者さんと便秘
透析患者さんは便秘になりやすいといわれます。我々の施設の調査でも、透析患者さんの14.3%が便秘で悩み、40.2%が下剤を服用していることがわかりました。
透析患者さんが便秘になる原因には、カリウム制限による食物繊維の摂取不足や飲水制限、薬(特にリン吸着薬)の影響、除水の影響、排便に重要な腹筋の衰えなど、いくつかの要因が組み合わさって起こるといわれています。
食物繊維の摂取状況と排便改善効果
食物繊維の摂取量を我々の施設の透析患者さんで調べてみましたが、平均摂取量は11.6gで、わが国の成人の平均摂取量15.0g*1と比べてもかなり少ない量でした。
では、どれだけ食物繊維を摂れば排便が良好になるでしょうか。それを示す明確なデータはありませんが、食物繊維を1日20g摂取すると糞便重量が増加し、良好な排便が期待できるとの報告がありました*2。
実際に我々の施設でも、便秘や下痢に悩む透析患者さんの食物繊維摂取量を1日20g程度に増やすと、1カ月後には全員が正常な排便になることがわかりました。透析患者さんでも食物繊維を増やせば、排便の改善が期待できます。
食物繊維とカリウム
食物繊維を摂取すれば良いことがわかっても、患者さんからは「食物繊維の多い食べ物はカリウムも多く含まれているから、たくさん食べられない」という話をよく聞きます。
確かに野菜や果物などの食物繊維量とカリウム量は比例関係にありますが、食材を選べばカリウム摂取量をさほど増やさないで食物繊維を多く摂ることができます*3(表)。
ぜんまいの水煮やきくらげなどは、カリウムを抑えつつ食物繊維が摂取できるのでおすすめです。レシピは矢吹病院のホームページに掲載していますので、ぜひご活用ください。(2016年2月作成)
さつまいもなどの芋類やアーモンドなどのナッツ類は、食物繊維とカリウムの両方が多いため、食べる量や頻度には特に注意しましょう。
栄養補助食品やサプリメントの利用
その他の便秘対策として、栄養補助食品やサプリメントが有効な場合があります。食物繊維や乳酸菌、ビフィズス菌などを含む製品は、排便改善効果が期待できます。
ただし、摂取の際はカリウムやリンの量に注意し、どのぐらい含まれているかをあらかじめ確認しましょう。わからないときは、医師や栄養士に相談しましょう。
排便習慣を身につけるために
良好な排便には、排便習慣も欠かせません。そのためには毎日3食を摂ること、特に朝食を摂ることが大切です。
体には、「胃結腸反射」というメカニズムが備わっています。これは、食べ物や飲み物が胃に送られることで腸の動きが活性化し、排便を促す働きです。夕食後からの空腹時間が長い朝食では、胃結腸反射が起こりやすいとされます。毎朝朝食をとり、便意がなくてもトイレに行くことを習慣づけましょう。
適度な運動やストレスを貯め込まないこと、規則正しい生活で体のリズムを整えることなども、排便習慣を身に付けるためには大切です。
*1 平成27年 国民健康・栄養調査
*2 Saito T, et al. J Nutr Sci Vitaminol 37: 493, 1991
*3 日本食品標準成分表2015年版(七訂)